微生物試験について
微生物限度値について | 遺伝子解析による細菌・真菌の同定について |
微生物限度値について
化粧品及び薬用化粧品等の医薬部外品の微生物限度値については、日本化粧品工業連合会(粧工連)の微生物専門部会において議論が重ねられた結果、国際標準規格ISO17516 (Microbiological Limits)に準拠する形で粧工連自主基準として定められています。
また、この自主基準には「未使用時における基準適合のみならず、使用時に混入した微生物が減少する、または増えないようにすることが重要」という文言が盛り込まれ、製造時の衛生管理だけでなく、製品内容物の適切な防腐力設計にも責任を持つことが求められています。

化粧品及び薬用化粧品等の医薬部外品の微生物限度値
製 品 項 目 | 専ら3歳未満の乳幼児に使用する製品 | 左記以外の製品 | |
生菌数(注1) | 1 x 102 CFU以下/g又はmL(注2) | 1 x 103 CFU以下/g又はmL(注3) | |
特定微生物 | 大腸菌 緑膿菌 黄色ブドウ球菌 カンジダ・アルビカンス | いずれも | いずれも |
(注1)好気性中温性の細菌数と真菌(カビ及び酵母)数の合計。
(注2)微生物試験のばらつきを考慮し、試験結果が、200 CFU/g or mLを超えた場合に限度値を超えたと判断する。
尚、CFUは、Colony Forming Unitの略である。
(注3)微生物試験結果のばらつきを考慮し、試験結果が、2,000 CFU/g or mLを超えた場合に限度値を超えたと判断
する。
参考情報
【試験方法】
第17改正日本薬局方:微生物限度試験法(非無菌製品の微生物学的試験:生菌数試験):カンテン平板混釈法
第17改正日本薬局方 参考情報:保存効力試験法
保存効力試験法は、多回投与容器中に充填された製剤自体又は製剤に添加された保存剤(防腐剤・殺菌剤等)の効力を微生物学的に評価する方法である。製剤に試験の対象となる菌種(表2)を強制的に接種、混合し、経時的に試験菌の消長を追跡することにより、保存効力を評価する(表3)。
- 製剤とそのカテゴリー
本試験を行うために、製剤を2つのカテゴリーに分類する(表1)。カテゴリーⅠは、水溶性の基剤又は溶剤を用いて作られたもので、水分活性0.6以上の製品と定義する。カテゴリーⅡは、非水溶性の基剤又は溶剤を用いて作られたものである。尚、水中油型基剤(O/W)を用いて作られたものはカテゴリーⅠに、油中水型基剤(W/O)を用いて作られたものはカテゴリーⅡに含まれる。
表1 製剤のカテゴリー
カテゴリー | 製剤の種類 |
I A | ・注射剤。 ・水性溶剤に溶解又は分散させた無菌の製剤(点眼剤、点耳剤、点鼻剤等)。 |
I B | 水性溶剤に溶解又は分散、若しくは水溶性の基剤に混和させた非無菌の局所投与製剤(点耳剤、点鼻剤、吸入剤、その他粘膜に使用される製剤等を含む)。 |
I C | 水性溶剤に溶解又は分散、若しくは水溶性の基剤に混和させた制酸剤以外の経口投与する製剤及び口腔内に適用する製剤。 |
I D | 水性溶剤又は水溶性の基剤で調整した制酸剤。 |
II | 非水溶性の基剤又は溶剤を用いて作られた製剤で、カテゴリーIに記載している全ての剤型を含む。 |
表2 試験菌株
試験菌 | 株名 |
Escherichia coli(大腸菌) | ATCC8739 / NBRC3972 |
Pseudomonas areruginosa(緑膿菌) | ATCC9027 / NBRC13275 |
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) | ATCC6538 / NBRC13276 |
Candida albicans(カンジダ・アルビカンス) | ATCC10231 / NBRC1594 |
Aspergilus brasiliensis(クロコウジカビ) | ATCC16404 / NBRC9455 |
表3 製剤区分別判定基準
カテゴリー | 微生物 | 判定基準 |
I A | 細菌 | 7日後:接種菌数に比べ1.0 log以上の減少 14日後:接種菌数に比べ3.0 log以上の減少 28日後:14日後の菌数から増加しないこと |
真菌 | 7日後、14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと | |
I B | 細菌 | 14日後:接種菌数に比べ2.0 log以上の減少 28日後:14日後の菌数から増加しないこと |
真菌 | 14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと | |
I C | 細菌 | 14日後:接種菌数に比べ1.0 log以上の減少 28日後:14日後の菌数から増加しないこと |
真菌 | 14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと | |
I D | 細菌 | 14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと |
真菌 | 14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと | |
II | 細菌 | 14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと |
真菌 | 14日後、28日後:接種菌数から増加しないこと |
※「菌数が増加しないこと」とは、先の測定値からの増加が0.5 log10以下であることをいう。
遺伝子解析による細菌・真菌の同定について
化粧品や医薬部外品の製造工程における試験や出荷判定時の検査において検出される微生物(細菌・真菌)、上市されている製品から消費者クレームによって発覚する微生物の同定については、従来は外観から判別するケースが多く存在しました。しかし、外観観察では、特徴的な外観のない微生物の判別が困難であり、また熟練技術を要するケースも多く、客観性に欠けるおそれがあります。 微生物の進化の歴史は、リボソームRNA(rRNA)に記録されており、近年の微生物分類学ではこの記録をもとに、系統発生的に区分する手法が採用されています。第十七改正日本薬局方参考情報G4. 微生物関連において「遺伝子解析による微生物の迅速同定法」が記載されており、この方法を基に微生物の「科・属・種」まで特定し、その微生物が人体に有害なものかどうかの判別が可能です。
科・属・種について
現在の生物の分類は、ドメイン・界・門・綱・目・科・属・種となっています。例えば、大腸菌であれば、腸内細菌<科>・エスケリキア(Escherichia)<属>・Escherichia coli<種>と分類されています。ニホンコウジカビであれば、マユハキタケ(Trichocomaceae)<科>・コウジカビ(Aspergillus)<属>・Aspergillus oryzae<種>となります。Aspergillus属は数百に及ぶ種を含んでいます。
細菌・真菌の同定方法について
同定対象とする細菌又は真菌を純粋培養する必要がありますが、サンプルから採取した検体中にはどのような微生物が存在するのか分からないため、嫌気性・好気性・栄養性などを考慮した上で、複数の培地にて培養します。適切な培地での純粋培養後に被験菌を採取し、PCR反応により、被験菌のDNAを増幅させます。日本薬局方には、細菌の場合は10F/800Rプライマーセット(16SrRNAの後半部分についても解析する必要がある場合は、800F/1500Rプライマーセットを使用)、真菌の場合は、ITS1F/ITS1Rプライマーセットを添加してPCR反応を行うと記載されています。つまり、プライマーを用い、微生物の特徴的な部分(細菌:16SrRNA、真菌:18SrRNAと5.8SrRNA間のスペーサー領域であるITS1)をPCR反応で増幅させた後、DNA解析装置にセットし、塩基配列を読み取ります。得られた塩基配列をGenBank等のデータベースと照合し、被験菌を特定します。
PCRについて
PCRとは、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字を取った用語で、ごく微量のDNAを出発原料として、高感度の検出を短時間で行う手法です。この手法を用いれば、DNAの特定領域を数時間で100万倍に増幅させることができます。増幅には適切なプライマーの設計が必要で、またDNAがDNAポリメラーゼにより複製されるにはプライマーが必須です。このように元のDNAにプライマーを加え熱変化を与えると、DNAの目的領域が増幅されていきます。
塩基配列について
DNA(デオキシリボ核酸)は、塩基と呼ばれる物質が、数珠のように長く連結された鎖から出来ており、このような鎖が2本集まって、二重らせん構造を形成しています。塩基にはT(チミン)、C(シトシン)、A(アデニン)、G(グアニン)の4種類しかありませんが、これらは様々な組み合わせでつながっています。したがって、DNAの塩基配列は、1次元的な長い文字列になっています。この文字列が、DNAの持つ遺伝情報です。
(DNA塩基配列の例)
ATGGTTGGTTCGCTAAACTGCATCGTCGCTGTGTCCCAGAACAT GGGCATCGGCAAGAACGGGGACCTGCCCTGGCCACCGCTCAGGA ATGAATTCAGATATTTCCAGAGAATGACCACAACCTCTTCAGTA GAAGGTAAACAGAATCTGGTGATTATGGGTAAGAAGACCTGGTT CTCCATTCCTGAGAAGAATCGACCTTTAAAGGGTAGAATT